[自作小説]怖い魔法使いへのお届け物

小説
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あらすじ

魔法使いへ食料を届けるのを手伝わされる少年アレックス。怖い魔法使いと噂されるため、アレックスは行くのを嫌がる。ビクビクと震えながら魔法使いが住むと言われる森の奥深くの城へ向かう。

怖い魔法使いへのお届け物

「こら、アレックス!早く荷物を荷車に載せないか!」
納屋の影でサボってたら父ちゃんに見つかってしまった。僕は小麦の袋を持ち上げて荷車に積みに行く。

「父ちゃん、本当に行かないとだめ?」
父ちゃんに不満をぶつける。

「魔法使い様に贈り物を届けに行かなくちゃ行けないんだ。」

今日は森に住んでいる魔法使い様へ食料や衣服などといった生活日用品を、父ちゃんと一緒に届けに行く。
魔法使い様の張ってくれた結界によって、この村は森の魔物たちから守られている。そのお礼だって。

森に住む魔法使いは、噂ではこの国で最強の魔法使いらしい。なんでも恐ろしい魔物と知られるドラゴンを狩り、戦争では魔法使い一人で数万の敵を倒したと言われている。

僕は魔法使い様に会いたくない。村のみんなが噂している。森の奥に住んでいる魔法使いは変人だって。魔法使い様は、小さな子供の心臓を食べたりするだとか、死んだ人たちを操って言うことを聞かせたりしているって。魔法の使い過ぎで、悪魔のように恐ろしい姿に変化してしまったという噂もある。角が生えていて、背中にはコウモリのような羽が生えているらしい。いたずらしていると親に「そんなに悪さをすると魔法使い様のところに届けて、心臓を食べてもらおうか」と脅される子供も多い。

村のみんなは、魔法使い様を悪いようにいうけど、贈り物はちゃんとする。でも、それは感謝しているからじゃない。贈り物を送らなかったことによって、魔法使い様の怒りを買うことを恐れているからだ。贈り物をしなかったせいで、魔法使い様のご機嫌を損ねてしまえば、僕らが住む村なんてあっという間に魔法使い様の魔法によって、火の海にされてしまうだろう。

みんなには恐れられている魔法使い様だけど、うちの父ちゃんは「魔法使い様はいい人だ」っていう。村の中ではかなりの変人だ。
「なんで、父ちゃんはそんなに魔法使い様を怖がらないの?」
一度父ちゃんに、聞いてみたことがあった。
「それは、魔法使い様が本当はお優しい人だからだよ。みんな魔法使い様のことをよく知らないから、怖がっているだけなんだ。魔法使い様は確かに強力な魔法を使える。私たちの命を奪うことなんて容易いことだろう。けど、魔法使い様はそんなことをしないお優しい人だ。会ってみたらわかるよ。常に私達の心配をしてくれている。村の人たちは魔法使い様の性格をよく知らないから、怖がっているだけだよ。」

魔法使い様を怖がらないのは父ちゃんくらいだから、毎回、魔法使い様に贈り物を届ける役は父ちゃんだ。

いつものように父ちゃんだけが行ってくれたらいいのに、「お前も遊んでいるなら手伝え」と駆り出されてしまった。

「お前も大きくなったんだ。魔法使い様にご挨拶しといてもいい頃合いだろう」
荷物を荷車に積みながら父ちゃんがいう。

「挨拶なんてしなくてもいいよ。」

ぼそっと僕はつぶやく。

「ん、なにか言ったか。」

「なんでもない。」

僕は乱暴に荷物を荷車にのせる。

「アレックス、道中話し相手になってくれよ。父ちゃんはいつも一人で贈り物を届けていたから寂しかったんだ。」
父ちゃんがニコニコと話しかけてくる。ちなみにアレックスというのが僕の名前だ。

「村の人たちに一緒に届けに行こうって誘っても、みんな怖がって一緒に行ってくれないんだ。」

正直、僕も行きたくないよ。けど、父ちゃんいくら嫌だって言っても聞いてくれないじゃん。
父ちゃんに言ってやりたいけど、黙っておく。どうせ、聞いちゃくれない。

「よし、全部の荷物を積み終わったかな。アレックス、じゃあ行こうか。」

父ちゃんが荷車を引く位置につく。魔法使い様のところまでは父ちゃんが荷車を引くことになっていた。荷物を届けて軽くなった帰り道には僕が引くことになっている。馬を持っていれば馬に引かせるのだが、あいにく、うちには馬を飼っていなかった。

魔法使い様の家に向かって父ちゃんと僕は歩き出した。

 

————————–

 

村の近くの森には、はるか昔に建てられたと言われる城がある。昔の王朝が使っていたお城らしい。その王朝は滅び、そのお城は放置され、廃墟となっていた。魔法使い様は、魔法の研究にちょうど良いと一人その廃墟に住んでいるらしい。

僕と父ちゃんは、今その城に向かって歩いている。
村と城までの道には魔法使い様の結界が張られていて、安全に通行することができる。もっとも安全だとしても、魔法使い様を怖がって利用する人はいないんだけど。

僕もこの道を歩くのは初めてだ。初めて見る場所にキョロキョロしてしまう。

「どうだ、大丈夫か。」

父ちゃんが荷車を引きながら声をかけてくる。

「大丈夫、父ちゃんこそ大丈夫?」

「ははは、父ちゃんは大丈夫だ。でも帰り道はアレックスに荷車を引いてもらうからな」

「わかってるよ」

「やっぱり、周りが気になるか?」

キョロキョロと周りを見る僕をみて、父ちゃんが聞く。

「気になるね。初めてだよ、こんなに森の奥深くに入ったのなんて」

「そうだよな、子どもたちは森に入ることを禁止されているものな」

うんうんと頷きながら父ちゃんが言う。

そう、僕達、子どもたちは森に入ることを禁止されていた。魔物が出た時に、非力な子どもたちでは対処できないからだ。森に入ることができるのは大人たちだけだった。森に用事があるときは、大人たち数人が徒党を組んで森に入っていた。
大人たちの目を盗んで、度胸だめしとして森に入っていくこともあったが、それも森の少し入ったところを探検するくらいだった。

—————————

 

魔法使い様の住む城の前までやってきた。

「ここが、魔法使い様の城かぁ。」

僕は城門の前で見上げてしまう。魔法使い様のお城は、ところどころ風化で崩れ落ちてしまっているところもあったけど、それは立派なものだった。石造りの城は、かなりの威圧感で息を飲んでしまう。あまりの大きさに、僕の家の何倍の大きさなのだろうと思ってしまう。こんなに大きなお家なら部屋もたくさんあるんだろうなぁと羨ましく思う。

魔法使い様のお城の本館のところから一本塔が建っていて、周りの景色を見るのには見晴らしが良さそうだった。

「魔法使い様はいるだろうか」

父ちゃんが同じように城を見上げながら言う。

「魔法使い様ー、フレッドです!食料品や衣服など、生活用品をお届けに上がりました!」

父ちゃんが城に向かって大声で叫ぶ。

その行為に僕はぎょっとしてしまう。

「ちょっと何やってんのさ。魔法使い様に失礼じゃないの」

「いや、そんなこと言っても俺達が来たことを知ってもらわないとお城に入れないだろ。」

「そうかもしれないけど」

大声で叫ぶ行為が、魔法使い様のご機嫌を損ねないかとビクビクしながら、魔法使い様の反応を待つ。

しばらく待っていると、目の前の城門がひとりでに開きだした。人の気配はないのに勝手に開いていく城門に僕は驚いてしまう。

「魔法使い様が気づいてくださった。よし、行くぞ。」

父ちゃんは当然のように荷車を引いて歩き出す。毎回、贈り物を届けていく父ちゃんには驚くような光景じゃないのだろう。

「父ちゃん、大丈夫なの」

「なにがだ?」

「だって、勝手に城門が開いたんだよ。おかしいと思わないの。」

「おかしいも何も、魔法使い様が魔法で開いてくださったんだろ。ほら、ボサボサしてないで行くぞ。」

父ちゃんは歩くペースを落とさずに、ずんずんとお城の中に入っていってしまう。僕は置いて行かれるのは勘弁だと慌てて後を追いかけた。

城門をくぐり抜けて、しばらく道なりに歩いていると、お城の本館への入り口が見えてきた。そして、その入り口の近くには黒いローブをまとったおじいちゃんが立っていた。
銀色と言っていいような白い髪に、白い髭。少し背が曲がっていて、杖を支えに付いていた。杖の先端には大きな宝石が嵌めこまれていて、キラキラと光って、とても綺麗だ。
おじいちゃんは荷車を引いてやってくる僕達の姿を見て笑顔を浮かべていた。とても優しそうだ。思わず僕も笑顔を返してしまう。

「ご苦労様。いつも荷物を持ってきてもらってすまないの。」

おじいちゃんが言った。

「いえいえ、魔法使い様。村のみんなは魔法使い様の結界に感謝しているんです。魔法使い様に贈り物を届けるのはなんの苦労もないですよ。」

父ちゃんが答える。

え、魔法使い様・・・・

父ちゃんの言葉に耳を疑う。

なんと、目の前にいる少し背の曲がった優しそうなおじいちゃんが魔法使い様と?

僕は驚きのあまり固まってしまった。みんなの噂だと、悪魔のように恐ろしい姿だという話だったのに。

「で、この子供がいつもお前が話してくれていた息子かの」

魔法使い様が父ちゃんに聞いている。

父ちゃんは僕のことを魔法使い様に話していたようだ。変なことを言っていないだろうかと心配になってくる。もしかして、僕の心臓を魔法使い様に食べてもらうために連れてきたのではないか、いまさらながら心配になってくる。

「ええ、魔法使い様。私の息子のアレックスでございます。おい、アレックス、魔法使い様にご挨拶しないか。」

父ちゃんが僕を小突く。

「アレックスです。いつも父がお世話になっています。」

緊張で上ずった声が出てしまった。

「そうかそうか。アレックスか。よく荷物を届けてくれたの」

魔法使い様は笑いながら僕の頭をくしゃくしゃと撫でた。突然のことに一瞬身をこわばらせてしまうが、嫌な感じはしない。やさしい手付きに緊張が溶けていく。

「それで、フレッド。儂が頼んでいたものは持ってきてくれたかの。」

魔法使い様が父に問いかける。

「ええ、持ってきましたよ。でも、子供用の服をどうするんです。もしかしてお孫さんのためとか?でも魔法使い様ってお子様やお孫様がいらっしゃいましたっけ。」

父が荷車からゴソゴソと、子供用の服を取り出す。

「いや、ちょっとした事情があるんじゃよ。」

「秘密ですか。また時期が来たら教えてくださいよ。」

父ちゃんが笑って答える。

「それでは荷物を運ぼうと思いますけど、いつもの通り倉庫で良いですか。」

「ああ、それでいい。ありがとう。」

「じゃ、アレックス行こうか。」

父ちゃんは僕に声をかけると再び荷車を引いて歩き出す。

本館の入り口とは少し離れたところに、小屋が立っていた。どうやらあそこが倉庫らしい。倉庫の入り口前に荷車を止めると、父ちゃんは荷物を下ろし始めた。僕も作業を手伝う。重たい荷物は基本的に父ちゃんに任せて、小さな荷物や軽い荷物を僕は運んでいく。

倉庫のなかにはたくさんの荷物が置かれていて、食料や衣服の他に、騎士が着るような鎧や剣、動物の剥製が置かれていた。興味を持って眺めていると

「勝手に触るんじゃないぞ」

と父ちゃんに注意されてしまった。
父ちゃんと僕は黙々と作業を続けていく。魔法使い様は、そんな作業をする僕達を眺めていた。

「父ちゃん、これで最後だよ。」

最後の荷物を積み降ろしながら、父ちゃんに声をかける。

「おつかれさん。それでは、魔法使い様。私達はこれで失礼しようかと思いますけど、今度持ってくるときに必要なものはございますか。」

「うーん、そうじゃなぁ。またお主の畑で取れた野菜を持ってきてくれるかの。お主が作ってくれた野菜がおいしくての。」

「ははは、そんなことを言っていただけるなんて嬉しい限りですよ。わかりました。今度は我が畑で採れたとっておきの野菜をお持ちいたしましょう。」

父ちゃんは僕の方に振り返って声をかける。

「アレックス。帰るぞ。お前も魔法使い様にお別れを言いなさい。」

「魔法使い様、これで失礼します。」

「アレックス、ありがとう。お主が来てくれて儂は嬉しかったぞ。そうだ、ご褒美にこれをあげよう。」

魔法使い様は懐からペンダントを取り出した。小さな緑色の宝石が細い鎖に繋がれていた。

「こんなものいただけません。」

ただ父ちゃんの手伝いに来ただけなのに、こんな高価なものなんていただくことができない。

「遠慮なんてせんでええぞ。これはな、守りの魔法を込めてあるんじゃ。フレッドの息子が来たら渡そうと思って準備しておったんじゃ。儂の準備を無駄にする気かの?」

魔法使い様が笑いながら、問いかける。

「それじゃ、ありがたくいただきます。」

そんなことを言われてしまっては断ることなんてできない。僕は魔法使い様からペンダントを受け取った。

「綺麗だ」

魔法使い様から頂いたペンダントを目の前にかざす。ペンダントの中心には緑に輝く宝石が嵌めこまれていて、周りの金属には文字が刻まれていた。見たことのない文字でなんて書いてあるのかはわからなかった。魔法に使われる文字なのかな。

「アレックス、帰ろうか。」

父ちゃんが声をかけてきた。父ちゃんはすでに歩き出している。

「うん。魔法使い様、ペンダントありがとうございます。父ちゃん、ちょっと待ってよ!」

僕は荷車を引いて、父ちゃんを慌てて追いかけた。

帰り道、「魔法使い様は怖くないよ」って友達に話そうと思った。

あとがき

ここまで読んでいただきありがとうございました。

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