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[自作小説] 特等席を君へ [Web小説][ 1万字 ]

こんにちは オービル ( @Ouvill ) です。ツイッターで小説のお題を投げつけている人がいるので、自分も参加してみました。

短編ものの恋愛小説です。一万字程度のものです。

この物語のきっかけ

Twitter での @fu_jisa さんのツイートによって、この物語はできました。

#いいねしてくれたフォロワーさんに架空の作品タイトルと感想送りつけるのでそれで一つお話書いてくれませんか

おお、面白そうじゃんと思って、「いいね」をポチっておりました。そして投下されたお題が以下のようなものでした。

オービルさん@Ouvill
タイトル「特等席を君へ」
感想
うっかり寝る前に読み始めたら眠れなくなってしまいました。それだけの表現力、素晴らしかったです。次々と起こる不可思議な出来事、それでいて、それがまるで自然かのように終焉へと向かっていく…。素敵な恋愛物語でした。

不思議な出来事で、恋愛物語……執筆経験の少ない自分にいけるかなぁと不安に思いながらテキストエディターを開いたのでした。

あらすじ

最近彼氏が出来た。
私の一目惚れだった。
すらっとした細身に高身長、優しい顔付きの男の子。
学校の補修で遅くなっている時の帰り道に偶然会った。
気がついたら口から言葉が出ていた。
「付き合ってください」って。

特等席を君へ

今日は高校の中間テストの補修で帰りが遅くなってしまった。もう既に日は暮れかけており、空は赤い。

涼子と千春はしっかりと赤点をしっかりと回避して、すでに帰ってしまっていた。少しくらい待ってくれてもいいのにと思ってしまう。先生ももう少し簡単な問題にしてくれたらな。

一人でとぼとぼと通学路を歩く。黙々と歩いているためにいつもより自宅が遠く感じてしまう。

――もっと勉強頑張らなくちゃ

ぐっと握りこぶしを作って気合を入れる。

顔をあげた時に、高校生ぐらいの男の子が向こうから歩いてくるのが見えた。

カッコいい。

一目見た瞬間からそう思ってしまった。

身長は私より頭一つ分高く、スラっとした体つきに長い足。少し幼さの残る中性的な顔立ち。憂いを帯びた表情。白いワイシャツにほぼ黒に近い紺色のスラックス。

私が理想とする男の子だった。こんな彼氏が欲しいと夢で想像する姿にピッタリと一致していた。

ぼーっとなって男の子を見つめてしまう。

気がついたら口から言葉がでていた。

「私と付き合ってください!」

私はいきなり何を言っているんだっ!!

男の子は立ち止まって私を見た。かーっと身体が熱くなる。絶対頬が赤くなっている。……間違いない。

男の子は後ろを振り返る。もう一度。……そしてキョロキョロとあたりを見渡す。男の子のほかに周りには誰もいない。

男の子は自分自身を指差す。

こくりと私はうなずく。

「ほんとに?」

「まじです」

もうやけくそ気味になって言ってしまう。自分自身でも何をやっているんだろうと驚いているくらいだ。もうそれほどまでに一目惚れだったのだ。

多分彼は変な女の子だと思っているだろう。いきなり付き合ってくれだなんて。もうばかばか。

私はただただ死刑宣告されるのを待った。ごめんなさいと。

「えっっと、こんな僕だけどよろしくお願いします?」

彼は困惑しながらも私に笑いかけてくれた。

「美咲って言います!藤沙が丘高校の二年一組です!得意な科目は国語!嫌いな教科は英語!……って何を言っているんだ。だからっ……えっと……その、よ、よろしくお願いします!!」

私はあまりの嬉しさに早口でまくし立ててしまう。自分でも何を言っているのかわからない。

そんな私を見て彼はくすくすと笑った。

「落ちついて美咲さん。僕は夏樹。藤本夏樹。よろしくね。ホントにこんな僕でいいのかい」

「もちろんです!というか、私のほうがいきなり告白して……はわわ」

改めて自分の行ったことの大胆さに恥ずかしくなる。顔がもう沸騰しそうだ。彼の顔を見ると、ニコリと笑いかけてくれた。もう、だめ。

「そ、それじゃ、これからよろしくお願いします!」

私はそういうと彼から走って逃げてしまった。

――――――

家に帰ると、ベッドの上で身を投げだした。今日のことが信じられなくてニヤニヤしてしまう。ケータイを取り出して友人のち春と涼子にメールを打った。

「報告、今日彼氏ができました。イェイ」

涼子からすぐに返信が来た。

「妄想乙」

ひどい。

千春からもしばらくすると返信がきた。

「すごいじゃない。どういう顛末でそんなふうになったの?」

――そうだろ。どうやって仲良くなったのか気になるだろ。

私は彼との出来事を事細かに、そして一部脚色してロマンチックに千春にメールした。ついでに涼子にも送っておいてやる。

「妄想乙」

「ついに夢と現実の区別がつかなくなったのね」

二人は散々なことを言ってきた。まったくもって失礼な奴らである。

でも、確かに改めて振り返ると、今日のことは夢のようにも思える。道を歩いていると理想の男の子を見かけて、初対面なのに告白が成功するなんて。

……まずい。今思えば連絡先さえ聞いていない。どうやって今後会おうっていうんだ。

そうだ。さっきの出来事は夢だったんだ。自分の妄想なんだ。友人たちの言っていることが正しいような気がしてきた。

そうとしか思えなかった。

あまりにも出来過ぎている。ずっと彼氏も居らず、一人で帰っていたこともあり心が弱くなっていたんだ。

……あんなイケメン君が私の目の前に現れるなんてありえない。

その日はベッドの上で膝を抱えて、小さく丸まって寝た。

――――――

翌日、学校に行くと涼子と千春に会った。

涼子は神を茶髪に染めた子。健康的に日に焼けた肌。屈託のない顔でいつもニカッと笑ってくれる女の子だ。元気いっぱいで私達を元気づけてくれる。

千春は艶のある長い黒髪にメガネをかけていた。いかにも学校の優等生と言った感じでキリッとした女の子。スラっと細い。でも出るとこは出てる。羨ましい。

性格は対象的だが、何だか気の合う私達だった。

私の顔を見るや、早速二人に昨日の出来事を聞かれた。

「いやー、なんといいましょうか。たぶん、アレは私の妄想だったというか。白昼夢だったと思います。はい」

涙目になって取り繕う私に対して、千春と涼子はうんうんとうなずいて、優しく背中をさすってくれた。

――ありがとう。

――――――

その日は補修がなかったため、両事千春と一緒に帰ることができた。

二人とふざけあって帰るのは楽しい。ファッション誌の話とか、少女漫画で誰が一番推しだとか、今度テレビでアイドルの〇〇君が生放送にでるとか。三人で話しているとコロコロと話題が変わる。そんな会話が楽しかった。昨日一人で落ち込んで帰ったのが嘘みたいだ。

走行話しているうちに夏樹くんと出会った道の近くまでやって来た。ついつい周りをキョロキョロと見回して夏樹くんの姿を探してしまう。やはり昨日の出来事は現実だったのではないかと期待して。

交差点の信号に捕まってしまう。

何の気無しに横の道を見ると、白いワイシャツに紺色のスラックスを来た人が見えた。夏樹くんが背を向けて歩いているのが見えた。

「いたっ!」

私は走って夏樹くんを追いかけた。昨日のできごとは現実?

「ちょっと美咲!?」

涼子が後ろから声を書ける。でも私はその声を無視する。

――夏樹くんに追いつくんだ。

夏樹くんは脇道に入っていく。

「まって!」

必死に足を動かす。私も脇道に入る。

「夏樹くんっ!」

夏樹くんの後ろ姿に声をかける。

夏樹くんは立ち止まると、ゆっくりとこちらを振り返った。

「美咲ちゃん、こんにちは」

夏樹くんは私にニコリと笑いかける。その笑みに私の鼓動は早くなる。

――私よ落ち着け―。

「夏樹くんだよね。私の夢じゃないんだよね。ホントに夏樹くんはいるんだよね」

きょとんとした顔で夏樹くんは私を見た。

「うん、僕はいるよ」

くつくつと口を抑えて夏樹くんは笑った。私も釣られて笑ってしまう。

――どうやら、ほんとに私には彼氏ができていたらしい。

――――――

「いきなり走りだしてびっくりしたよ。何かあったの?」

翌日、両事千春に学校で問いつめられた。

「んっふっふ。いたんだよ夏樹くんが。私の妄想じゃなかったんだよ」

にやにやと私は二人に報告する。

二人は顔を見合わせる。

涼子は私の背中をポンポンと叩く。

「無理しなくていいんだよ」

「ホントなんだから。ちゃんと写真も撮ったんだよ!」

ケータイを操作して、夏樹くんの写真を出す。バッチリと私も一緒に映っている。

昨日友達に見せるからと、別れる前に撮っていたのだ。夏樹くんは照れながらも了承してくれた。

二人はケータイを覗き込む。

「すっげーイケメン」と涼子

「美咲さん好みの顔ね」と千春

「でしょ」

えっへんと私は胸をはる。……胸なんてあんまりないけど。

「ついに美咲にも春がきたか」と涼子

「ビックリですね」と千春

「似先には彼氏なんてできないと思っていたのにな―」と涼子

「こんなお転婆娘に捕まるなんて夏樹さんも可哀想」と千春

「私にかかったら彼氏なんてヨユーなんです―」

三人で騒いでいると周りの女子も集まってきた。

「何のはなししているの?」

「美咲が彼氏を捕まえたって話」

「うそっ!」

女子はは皆集まって私のケータイを覗き込む。

「チョーイケメンじゃん!」

「え、ちょ、えぇ!美咲が!えぇ!!!」

「美咲に先越されたよ―!だれかイケメンを紹介して―」

――そんなに私は恋愛に縁遠いと思われていたのか。

「この人の名前はなんていうの?」

「藤本夏樹くんっていうの。知っている?」

女子は皆知らないと首を横にふった。

私だけが夏樹くんを知っている。

……私だけが知っている彼氏。

優越感に嬉しくなった。

――――――

それからの私は幸せだった。

毎日、学校が終わると夏樹くんと公園のベンチで待ち合わせをして一緒に過ごした。

今日はこんなことがあったとか、あんなことをしたと夏樹くんに話した。だいたい涼子と千春が関わってくる話だ。涼子が宿題を忘れたとか。千春がテストで満点とって浦島しいとか。今度の体育のバレーの試合には負けられないとか。

夏樹くんはうん、うんとうなずいて、ニコニコと聞いてくれた。

ついつい自分ばかりが話してしまう。だって彼聞き上手なんだもん。

「夏樹くんはなにをしていたの?」

自分ばかりでイケないと思って、ある日彼に質問した。

「僕?」

「夏樹くんが普段どんなことをしているのか聞かせて?」

「美咲さんみたいな面白いことなんてあんまりないよ。この街を一人で散歩したりして、いろんな人を見たりしてる。あとは美咲さんが今何やっているんだろうなぁって想像したり」

……さらっと私のほうが照れる発言やめてくれません。

「学校は?」

夏樹くんはすっと私から視線をそらす。

「今は行っていないんだ」

おっと。

「ごめん」

夏樹くんのことをもっと聞きたかったけど、それ以上は聞けなかった。

――――――

夏樹くんとのデートの場所は人が少ないところがおおかった。

公園とか美術館とか。

一度なんて近所の藤沙山に二人で登ったりもした。小鳥のさえずりや風邪にそよぐ枝葉の音、小川のせせらぎを聞いて、自然を満喫した。

人の少ないところで、ゆっくりと二人だけで話すのだ。話すといっても大抵私が話して、夏樹くんはうんうんんと聞いているだけだけど。

二人だけの時間も楽しい。でも、遊園地やプール、映画館にも行きたいと思ってしまう。

一緒にアトラクションに乗って思い出作りをしたい。彼に水着姿をみせてどぎまぎさせたい。逆に彼の身体も見たい。感動的な映画を見て、いいムードに包まれたい。

いろんな場所に行って、夏樹くんとたくさんの思い出を作りたい!

ある日、公園のベンチで二人で語り合っている時に言った。

「遊園地にいきたい!」

夏樹くんはちょっと困ったような顔をして――

「人の多いところは苦手なんだ。それに……」

「それに?」

彼は私の耳元に顔を近づけると囁いた。

「君を独り占めしたいから」

聞いたこっちが恥ずかしくなった。

――――――

涼子と千春は私の良き友人だ。

学校ではもっぱら一緒にいるのはこの二人だ。

最近は夏樹くんとあんなことをした。こんなことをした。と学校で二人に報告した。いかに私の彼氏が格好いいか、いかに素敵かを友人たちに逐一伝えた。

「まーた惚気か。いいですね!!カッコいい彼氏と、ラ・ブ・ラ・ブで!!」

やれやれというように涼子が言う。

「連日の惚気で胸焼けがしそうです」と千春。

「そんなラブラブな彼氏とはのチューはいつなんでしょうね」

じとーっとした目で涼子は問いかける。

「チューだなんてそんなっ!私達付き合ったばかりだし!まだ手を繋いだこともないし
っ!」

私は手をブンブンふって否定する。

「まだ手を繋いだこともないのかよ」

「意外です。美咲さんは男に飢えていたのでもうあっちの方も済ませているかと」

とても二人に驚かれた。というかお嬢さん、あっちってなんですか。

「だって、初めてできた彼氏だし……どうしたらいいかなんてわかんないもん……あんまりに積極的だったら嫌われてしれないし……」

うじうじとしてしまう。

「まあ可愛い」と千春。

「そんなもん、勢いでいけばいいんだよ、勢いで!!」と涼子

その日は両事千春に頑張って、とめちゃくちゃ応援された。

――――――

涼子と千春と別れたあと、夏樹くんと会った。

いつものように今日はこんなことがあったと話して聞かせる。もちろん、チューの話は伏せて。

私達は付き合っているのだ。私だって夏樹くんとチューくらいしたい。チューとまではいかないまでも手を繋ぐくらいしたい。

夏樹くんはどうなんだろう。ちらりと夏樹くんの顔を見る。

夏樹くんは私が見ているのに気がつくと、ニコリと微笑んでくれる。

――手を繋ぎたいと思っているのは私だけなのかな。夏樹くんも私と同じように手を繋ぎたいと思ってくれているかな。

私は夏樹くんと話しながら、もやもやした何かが胸の奥に渦巻いた。

夏樹くんと話し込んでいると、いつの間にかあたりは暗くなっていた。

「家の近くまで送るよ」

夏樹くんはそう言って歩き出した。

「あ、ありがとう」

二人で並んで歩く。

――今なら手を繋げるかな

夏樹くんの細くて長い整った指にチラチラと視線がいってしまう。

私は少しずつ少しずつ夏樹くんとの距離を詰めていく。

手を夏樹くんの方に伸ばしたり、引っ込めたり……。伸ばしたり、引っ込めたり……。

――ええい、ままよ!

あっ。

差し出した手は空を切る。

私が手を伸ばしたときに、夏樹くんは自身の手を紺のスラックスのポケットに入れてしまった。

……さけられた?

私は一瞬呆然となって立ち止まってしまう。

……夏樹くんは私と手を繋ぎたくない?

夏樹くんは私が立ち止まっているのに気づいたのか振り向いて、

「どうかした?」と笑って問いかけた。

……偶然だよね。たまたまタイミングが悪かっただけだよね?

「何でもない」

私はぶんぶんと頭を振ると夏樹くんを追いかけた。

――――――

「今度美咲の彼氏に会わせてよ」と涼子が言った。

「確かに美咲さんの話を聞くだけじゃなくて、実際に会って話してみたいですね」と千春。

食堂でご飯を食べているといきなり二人がそんなことを言ってきた。

夏樹くんと二人が会う姿を想像する。

涼子と夏樹くん……涼子がガッハッハと笑いながら夏樹くんの背中をバシバシと叩いている様が浮かんだ。夏樹くんは痛そうだけど、多分大丈夫。涼子は半分男みたいなものだから夏樹くんとも仲良くできるだろう。

問題は千春だ。

ちらりと千春を伺う。

千春は整った顔をしている。普段は制服で大人しい格好をしているから、男子の話題にはならない。でも私は知っている。コイツのお洒落した格好はマジで可愛いことを。

お洒落した千春にあったときに、夏樹くんが惚れてしまわないだろうか。

「『私の夏樹くんが盗られちゃうー』」と涼子が冷やかす。

「っ、わかったよ。彼に頼んでみるよ」

「彼だって―」

「仲がいいことですね」

きゃっきゃと二人は笑い合う。

「もうっ!」

私はどんと机を叩いた。コップに入った水が少し零れた。

――――――

「友達と会って欲しい?」

いつものように公園で夏樹くんと会っている時に、涼子と千春が会いたがっていることを話した。

「私と中のいい友達、涼子と千春っていうんだけど」

ダメ……かなとうつむき気味に夏樹くんに聞いてみる。

「たぶん僕を紹介しても楽しくないと思うよ」

夏樹くんは困ったように顔をしかめる。

「あと恥ずかしいや」

「そっか、そうだよね」

いいいよ、気にしないでと笑って取り繕う。

涼子と千春に紹介できないことは残念だった。

だけど、ホッとしている私がいた。

夏樹くんを知っているのは私だけ。

盗られる心配が無くなって安心。

私って独占欲が強いのかも知れない。

――――――

家でゴロゴロしている時間は私服だ。

夕食を食べ終わった私は、リビングのソファに寝っ転がって怠惰に過ごしていた。テレビをBGMがわりに垂れ流しながら、ファッション雑誌を見ていた。

――今度はどんな服装をきて夏樹くんに会おう。

あーでもない、こーでもないと頭の中で考える。

夏樹くんはどんな服が好きだろうか。

彼の喜ぶ顔が見たくて、いつも彼のことを考えてしまう。

夏樹くんが普段着ている服を思い出す。

……

白い服と黒に近い紺のスラックス。

夏樹くんにはよく似合っている。

スラっと伸びた足に、少し胸元を見せるようにワイシャツを緩く留めている。色気さえ感じさせる姿に惚れ惚れする。

そこである違和感を感じた。

いつもその格好なのだ。

平日でも、休日でも、白のワイシャツに紺のスラックス。

彼がそれ以外の服を着ているところを見たことがなかった。

少し不満を感じてしまう。

私はお洒落をして、ちょっぴり気合を入れてメイクまでしているのに。

――なんでだろう。

お気に入りの服?同じ服が何枚もある?それとも、あの服しか持っていないとか?

以前、彼が「学校にも行っていない」と行っていたことも関係あるだろうか。

――今度聞いてみようかな。

……でも

躊躇してしまう。なんだか聞いてはいけないような気がしてしまう。彼は普段自分のことをあまり話したがらない。複雑な家庭事情を抱えているのかもしれない。

服のことを聞くのはやめておこう。

代わりに今度彼が喜びそうな服をプレゼントしようと思った。すっきりとしたデザインの服がいいよね。うん。

ファッション雑誌に「彼氏に着せたいオススメファッション」という特集があったはず。パラパラと雑誌をめくる。

ファッションについて研究しているとお母さんに声をかけられた。

「アンタそんなにゴロゴロして。来年は受験なんだよ。受験。勉強しな」

「うーん」

「早く早く。それとアンタ最近公園によく居るみたいじゃないか。噂になっているよ」

「えっ!?」

私は驚いてお母さんを見る。噂になるって何。私と夏樹くんのいちゃいちゃが奥様方の井戸端会議の話題になっていると?

「公園に女の子が一人いるのは危ないからね。寄り道なんてしないで早く帰ってくるんだよ」

とお母さんは続けた。

良かった。夏樹くんのことはあまり話題になっていないようだ。たしかに公園のベンチで夏樹くんと話すことはよくあった。でも、入り口からは見えにくい置くのベンチに座っていることが多かった。なので、私のことを噂している奥様は、私の姿しか見えなかったのだろう。それか近所の人たちは、夏樹くんのことをあまり知らないから、噂にならないだけなのか。

お母さんに夏樹くんの存在を知られたら、余計な冷やかしをうけると思っているから、出来るだけ秘密にしておきたかった。

最近私の気分がいいこととお洒落して出かけることが多いから、お母さんは薄々気がついているかもしれないけど。

――――――

夏樹くんの家はどこなんだろう。

夏樹くんに家の近くまで送ってもらいながら思う。

いつもデートを終えた後、私は家の近くまで送ってもらっていた。お母さんに見られたくないから近くまで。

だから夏樹くんは私の家の場所を知っている。

けれども、これまで一度も夏樹くんの家に行ったことがない私は、夏樹くんの家の場所を知らない。

これは不公平というものではないだろうか。

夏樹くんがもし私の家に来たくなったらいつでも来れる。もし彼が私の部屋に忍び込んで一時の逢瀬をしようとするならばできるのだ。いや、でも、まあ……。

なのに、私は場所を知らない。夏樹くんの家に訪問できないのだ。夏樹くんのお母様に「こんにちは、夏樹くんとお付き合いさせてもらっている美咲です」と挨拶することも、夏樹くんが病気で寝込んでいる時に甲斐甲斐しく看病することも、夏樹くんの逆夜這いをかけることも出来ないのだ。……まだ、手も繋いでもいないけど。

「夏樹くんのお家ってどこかな」

思い切って私は聞いてみた。

「秘密」

「おしえてくれてもいいじゃない。いざというときに住所わかっていないと困るし、……プレゼントだって送れないし」

最後は小声になってしまう。

「なんだって」

夏樹くんがにやにやとした表情で聞き返す。絶対聞こえてた。この人絶対聞こえてたよ。

「美咲さん、もう一度言ってくれる」

「プレゼントだって送れないし教えてよっ!」

かーっと頬が赤くなる。

彼は住所を口にする。私はケータイのメモ帳に打ち込む。

夏樹くんの住所ゲット。

「ありがとう」

「美咲さんが喜んでくれるなら」

家の近くまで送ってもらって、夏樹くんと別れた。

夏樹くんに何を送ろうかと、家につくまでの間考えた。プレゼントを選ぶ、考える時間は相手のことを思えるから好きだ。

私は家に帰ると、手に入れた夏樹くんの住所をスマホで検索する。どんな所に住んでいるんだろう。

すぐに地図に住所が表示される。検索場所がどのような場所なのか、実際の写真で確認できるストリートビューの機能を有効にした。

えっ……。

彼が口にした住所には何の建物も建っておらず、ただ空き地に雑草が蔓延っており、「売り地」という立て看板があるだけだった。

なんにもなかった。

――――――

「嫌われているかもしれない!?」

学校で涼子と千春にこれまでの事を打ち明けた。

いまだに手すら繋げていないことや嘘の住所を教えられたこと、なにかと謎が多い夏樹くんのこと。

夏樹くんのことを全然知らなくて、でもそれを聞けるような雰囲気じゃないこと。

話していくほどに胸の奥が締め付けられて、目からは涙がポロポロとこぼれていく。

「遊ばれているな」と涼子が腕を組みながらいう。

その言葉にぶわあと涙が溢れる。そうだよね。私みたいな女の子が夏樹くんと付き合えていることがおかしいんだよね。

「そんなに断定しないの。何か理由があるのかもしれないじゃない」

千春がそういいながら、ハンカチを差し出してくれた。

私は受け取って目元に当てる。

「あ、ありがとう。これは洗って返すね」

笑顔を作ろうと思うんだけど作れない。

よしよしというように千春が抱きしめてくれる。

「美咲さんもそんなに泣かないの。一度夏樹さんと真剣に話し合ってはどう。いつもみたいにふざけているんじゃなくて、真面目に」

千春が私の顔を覗き込む。

ゆっくりと私はうなずいた。

「えらいえらい」

千春がお母さんのように思えた。

――――――

放課後、いつものように夏樹くんと会った。

真っ赤に目を泣きはらしたまま。

「どうしたの」

夏樹くんは困惑したように問いかける。

「私、夏樹くんのこと全然しらない。何処に住んでいるのか、いっつも何をしているのか、なんで学校に行っていないのか。私は夏樹くんの彼女なのに。ねえ、夏樹くんのことを教えて」

私は目に涙をためながら問いかける。

夏樹くんはそっと私の顔に手を伸ばしていく。まるで触ってしまえば壊れてしまうようにそっと。でも、その手は私に触れる前に降ろされる。

なんで。なんで触ってくれないの。なんでそこでやめちゃうの。

私は疑問でいっぱいになる。

彼女が泣いているんだよ。ぎゅって抱きしめてよ。よしよしって慰めてよ。

「ついてきて」

夏樹くんはうつむき気味にいった。前髪で隠れて表情がよく見えない。

いつもは並んで歩くのに、今日は夏樹くんが先を歩いて私が少し後ろをついていく。ちょっと泣きながらついて行っているから、私の歩みは遅くて、すぐに距離が離れてしまう。その都度、夏樹くんは立ち止まって待ってくれる。でも手を繋いではくれない。

「こっち」

と、夏樹くんは藤沙山の登山道の前でいう。

なんで藤沙山なんて登るの。私は夏樹くんの事が知りたいの。

夏樹くんはずんずんと登って行ってしまう。仕方がないから私もついていく。

夏樹くんはどうするつもりなのだろう。私を藤沙山に連れ込んで。

女子高生の惨殺死体が山中で見つかる、という新聞記事の見出しを想像してしまう。まさか。夏樹くんはそんな事しないよね。

藤沙山の中腹辺りで夏樹くんは登山道を逸れて、獣道に進んでしまう。以前登った時には歩いていない道だ。

奥に進んでいくにつれ、だんだん木々がうっそうとしていき、道も歩きにくくなる。夏樹くんはそれでも歩みをとめない。まっすぐに迷いなく進んでいく。

夏樹くんの目的はなに。私を何処に連れて行くの。

急に視界が開けた。

そこは展望台のように見晴らしのいい崖になっていた。大きな岩が一つだけ突き出していた。

真っ赤に染め上がる空を背景に、私達の街を一望でき、沈みゆく太陽が赤い宝石のように綺麗だった。

「綺麗」

思わず声が出てしまう。

「僕だけが知っている特等席。ここに来ると心が落ち着くんだ。嫌なことがあるといっつもここに来てた。君にあげるよ」

夏樹くんが私に囁く。

「ありがとう。でも、私が知りたいのは夏樹くんのこと。こんな景色じゃない」

「そこの岩から下を覗き込んでごらん。ただ気をつけてね。落ちたら僕みたいになっちゃうから」

私はゆっくりと大岩から下を覗き込んだ。

十数メートルしたに白骨が転がっていた。人間の頭蓋骨や肋骨だった。

「ひっ」

私は慌てて岩の上から飛びのいた。

「見えた。あれが僕」

何処か物哀しい表情で夏樹くんがいう。なにを言っているの。夏樹くんはここにいるのに。

「ごめんね。僕ここで足を滑らして死んじゃっているんだ」

どういうこと。

「手を握ろうか」

夏樹くんが手を差し出す。いっつも私を避けていた手。その手が何の躊躇もなく差し出される。

私はその手を取ろうとした。

でも触ることができなかった。私の手は夏樹くんの手をすり抜けてしまう。まるでそこには何もないかのように。

「わかった」

うそ。

「早く言おうとしたんだけど言う勇気がなくて、ズルズルと引き伸ばしちゃった」

そういいながら夏樹くんの姿がだんだん薄くなっていく。

「このまま僕が美咲さんの近くにいても良くないから僕は消えるよ」

まって。

「バイバイ」

夏樹くんはニッコリと最後に素敵な笑顔を見せた。

――――――

一人で山を降りた後、白骨死体が山中にあることを警察に伝えた。

警察によると、数十年前に藤沙山で行方不明になった高校生の男の子がいたらしい。おそらく、その子の遺体だということだった。

名前は藤本夏樹。

私の初めての恋人。

あとがき

JKという生物がわからないため、おっさん臭いJKになっています。
夏樹くんもずーと笑ってますし。もう少し爽やか青年を描きたい。

にしても全体の文調が、いかにもケータイ小説って出来ですね。純文学というのには縁遠い人間なので仕方ないのですが。

さてと、伏線というものをせっせと仕込んだつもりではありますが、伏線として機能してくれているのかどうなのか。独りよがりになっていないか、不安であります。

あと、もう少しイチャラブさせたかったのですが、相手に触れることの出来ない幽霊だとイチャラブさせるのが難しいですね。

ここまでお読みいただきありがとうございました。

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